リレー小説論

生ケ物同盟代表、瀬田川史人です。
今回も『なまけもののお茶会3』を無事発行することが出来ました。




その中にメンバー全員によって書かれたリレー小説「祭の日に黄金の風は吹くか」が掲載されています。
せっかくの機会ですので、リレー小説について裏話を含めてここで語りたいと思います。
基本的に、ライトノベルを中心に書いていくことになります。ネタバレもありますので、注意をお願いします。




まず、リレー小説とは何か?
複数人の作家によって書かれた一本の小説となります。場合によっては様々な制約が付きます。
シェアワールドとの違いとしては、世界観さえ守っていれば作家が基本的には自由に物語を展開可能です。
また、登場人物から構成、文体まで自分の持ち味を出すことが出来ます。
代表的なものとしては、GA文庫刊行の「神曲奏界ポリフォニカ」の各シリーズや電撃文庫刊行の「龍盤七朝」シリーズ、東京創元社刊行の「蝦蟇倉市事件」などが挙げられます。



一方、リレー小説は原則的に最初の人が書いた設定を守る必要があります。以降、執筆者が設定を増やしていくごとに制約が増えていきます。
途中の執筆者は完全に終わらせることは当然ながら禁止です。その代わり、真ん中に位置する人はわりと気楽に執筆することが出来ます。
しかし、伝言ゲームをやった人なら分かると思いますが、伝言というものは人を経れば経るほど内容は少しずつ変わっていきます。
リレー小説も同様で、各作家の個性が大なり小なり反映され、内容がカオス化していきます。時には矛盾点が生まれることもあります。それがリレー小説の醍醐味とも言えるわけですが。
カオス化していく展開を解決するのが、基本的にはトリとなる作家になります。
大抵、今までの伏線を回収しつつ、どのようにオチをつけるべきか大いに悩むことになります。
また、リレー小説ならではということで、基本的には編集の手を入れません。それに加え、書き終わった人が口出しすることも原則NGとなります。



では、実際に刊行されている作品を参考に、具体的見ていきたいと思います。


等身大に近いリレー小説が描かれているのが、平坂読著『ラノベ部』シリーズ(MF文庫J刊行)だと私は考えています。

ラノベ部 (MF文庫J)

ラノベ部 (MF文庫J)

作中にて軽小説部のメンバーによるリレー小説が何度か展開されます。
ただ、スポーツ少年にBL大好き、小説初心者など一癖以上あるキャラクターで書かれたため、物語は非常に混沌に。
勿論、あくまで作者一人によって構成されているため、展開は面白くあるようになっています。ですが、リレー小説の妙が表現されていると思います。
仲間内ならではの盛り上がりになってしまう部分もありますが、それでも面白く読ませる作品を書く、ということを表しているものとなっています。
実を言いますと、我々生ケ物同盟のリレー小説はこの『ラノベ部』シリーズのリレー小説に影響されています。
私個人としても、この作品は興味深く、オススメをしておきます。
また、同じく平坂読著『僕は友達が少ない』シリーズ(同MF文庫J刊行)内でも、リレー小説は一度展開されていますが、こちらは作中キャラクターを立てることを重視した内容という感じになっています。


リレー小説ながら作家魂を見せ付けてくれた小説が、新井輝築地俊彦水城正太郎師走トオル田代裕彦吉田茄矢あざの耕平著『ネコのおと リレーノベル・ラブバージョン』(富士見ミステリー文庫刊行)です。

各作家の個性が見事に反映された非常にカオスな作品です。
メタ構造あり、設定の崩壊危機あり、など何でもありな小説ですが、見事に一つの作品として完結しています。
後半三名の作家による収束具合は凄まじいものを感じさせます。私も小説を書いている身として、ハラハラしつつ面白く読ませて貰いました。
二つほど文章を引用させていただきます。
なんというか、リレー小説というものは非常に怖いものなのである。爆弾を後ろに回していくようなものだ。無茶苦茶を書けば後ろの人を困らせることができる。だが、後ろの人がその無茶苦茶を見事に利用して物語を進めれば、それは爆弾をはじき返したようなもので、無茶苦茶をやった前半の者が馬鹿を見る。(94ページ)
確かにこんな企画、ラストだけは嫌だ。私も嫌だ。とてもではないが収拾をはかる方法なんて思い浮かばない。正直、好き勝手できそうな四番手であったことを幸運だったと思っている。(147ページ)
プロ作家というのもありますが、逆に言えばプロ作家でもきちんとした小説にするにはリレー小説は困難なものである、ということでもあります。
あざの耕平氏が何とか収束を図るため、後半作家三名で会議をしたとかしていないとか。私も今回信天翁と会議を重ねたとか重ねていないとか。
今や中古でしか入手できませんが、作家の力を垣間見れる作品として一読の価値はあると思います。



リレー小説とは違いますが、リレー小説的展開を見せてくれている小説群が、電撃文庫記念企画「電撃コラボレーション」(電撃文庫刊行)だと思います。

MW号の悲劇―電撃コラボレーション (電撃文庫)

MW号の悲劇―電撃コラボレーション (電撃文庫)

特に、『MW号の悲劇』・『最後の鐘が鳴るとき』がその側面を持っています。本来、シェアワールドに分類されるとは思いますが、こちらで紹介させていただきます。
ただ一番強いのは、「とある家族の謹賀新年」(「電撃文庫MAGAZINE プロローグ1」収録)だと思っています。しかし、文庫されているわけではないので、今では入手困難となっています。
それぞれ沈みゆく豪華客船・閉校する学園・ある家族を舞台としていますが、それぞれがゆるく関係し合っています。
そして、この全ての作品でトリのポジションを務めているのが、成田良悟氏です。圧倒的です。よくもまぁこんなことを出来るものだと感心するばかりですね。
「とある家族の謹賀新年」においては、家族にとりついている「悪霊」を担当し、見事にそれまでの物語を取りまとめオチをつけています。
なので、私たちの中でも最後の一つ前の取りまとめポジションを「成田良悟ポジション」と呼ばせていただいています。



以上のように、リレー小説というのは作家たちにとっては何とも奥深いものとなっていると思います。
この文章を機にリレー小説などにも興味を持っていただけたら、幸いです。
読者の皆様においては、一度作者の視点から「自分ならばどのように展開をしていけるだろうか?」と考えながら読んでみると新たな発見があるかもしれません。




最後に、今回掲載のリレー小説「祭の日に黄金の風は吹くか」について、宣伝を兼ねて、裏話を少し。
この企画は第一回リレー小説「零と一の七不思議」(『なまけもののお茶会』収録)が我々なりにうまく物語として成立したことから始まりました。
ちなみに、第一回リレー小説は私たちの中では「奇跡」と称されています。
第十三回文学フリマが終了した直後、2011年11月3日より企画はスタートしました。
今回はファンタジーっぽいものをということで小枝流から余裕を持って執筆が始まったはずなのですが……
その後、生ケ物同盟に二木詞有・斎藤栄次郎の二名が加入することとなり、総勢七名でのリレー小説となりました。
メンバーそれぞれの個性が存分に発揮され、リレー小説ならではの面白い作品となったのではないかと自負しております。




いよいよ、明日が第十四回文学フリマとなりましたが、どうぞよろしくお願いします。